storyイメージ

百人百色 -いつも柔軟に頭をやわらかく-

Loco920* 阪本裕宣さん

皆さんは時間を忘れてしまうほど何かに熱中した経験はありますか?
寝る暇も惜しいと思えるくらい、何か夢中になれるものに出会うことは、人生において大きな財産になるのではないかと思います。
人は自分1人の人生しか経験することはできませんが、いろいろな人の人生を知ることで、疑似体験をしたり、自分の人生だけでは触れられなかった価値観を知ることができたりしますよね。
『百人百色』は、さまざまな人生を歩まれている方々にお話を伺う連載です。



今回は、サーフボード製作の全工程、シェイプ、ラミネート、フィン製作に至るまで全ての工程をご自身独りの手でこなすサーフボードビルダー 阪本裕宣さんに、人生の軌跡や大切にされている価値観についてお話を伺いました。

Loco920*







阪本さんのお店『Loco920*』は、大阪府和泉市にあるサーフボードやフィンをはじめ、カフェ、雑貨や古着などを取り扱われているサーフショップです。





オーナー兼クラフツマンである阪本さんは、シェイプ、ラミネート、フィン製作に至るまで全ての工程を自身独りの手でこなすサーフボードビルダー。
Loco920*では、阪本さんによるハンドシェイプカスタムサーフボードやハンドメイドカスタムフィンをオーダーメイドで受注されています。



常夏を感じる商品たちが並ぶ素敵な店内で、阪本さんの人生の軌跡や大切にされている価値観についてお話を伺いました。

きっかけはものづくりへの好奇心

あまり聞きなれない(サーフボード職人)というお仕事。
阪本さんに、サーフボードビルダーを目指されることとなったきっかけを伺いました。



「 昔から物作りが好きで欲しいものができると、買いたいではなく『どうやって作るんだろう?』と考えていました。裏染めのデニムが流行った時は自分で染めてみたり、スリムなデニムが流行ったら、ミシンで細くしたり、何でも自分でやらないと気が済まない性格なんです。
高校卒業後は、大工の仕事をしていました。父が建築の設計士で、僕が高校生の時にに独立して工務店を始めたので、高校を卒業したら父の工務店に自然と就職しました。小さな工務店なので、何もかも全部やらなきゃいけないんです。大工仕事から水道関係、左官業、壁紙を張るところまで一通りやっていました。」
もともと、ものづくりが好きで、お父さまの影響もあり、自然と大工の道へと進まれた阪本さん。
そこからどのようにサーフボードシェイパーの道を歩まれたのでしょうか。





※画像提供:阪本さん
「"ビッグ・ウェンズデー"というサーフィン映画の影響もあり、サーフィンへの憧れが中学時代からありました。でも、サーフィンをするきっかけがなく、ノートの片隅にサーフボードの絵を描いたりしながら、憧れを持って過ごしていましたね。
工務店に就職して車も運転するようになった頃、友達と街の粗大ごみの中からまだ使えるものを見つけに宝探ししてたんです。その中にサーフボードが捨てられているのを見つけて持ち帰ったら、ちょうどその友達もサーフボードを見つけていて『ほな、行こか!』と見様見真似でスタートしましたが、その一回目からどっぷりサーフィンにハマっていきましたね。」





※(画像上)画像提供:阪本さん
「サーフィンにハマっていくと、やはりサーフボードってどうやって出来てるんだろう?と考えるようになりました。始めは自分でサーフボードの修理をしていましたが、修理をしていくうちに、サーフボードを自分で作ってみたいという気持ちになってサーフボードの歴史を調べてたら、もともとは木でできていたことを知ったんです。木だったらいつも触ってるし出来るだろうと、2ヵ月くらいかけて1本のサーフボードを夢中で作りました。知り合いを通じてファクトリーに最後の仕上げだけお願いして完成、2年くらいはずっとそのウッドボードに乗っていました。」





「そこから現在主流になっているフォーム材での製作もきっと出来ると思い、建築の仕事をやりながらサーフボード作りを始めました。いきなり事業投資をするのは難しいので、壊れて捨てられているサーフボードを拾ってきて全て剥がして0の状態から作ってみるというのをやってみたり、折れたボードを繋いで再生してみたり。それを経てきちんとした材料を仕入れての製作を始めました。最初は自分用にだけ作っていたんですが、そのうち友達から頼まれて作るようになり、少しずつ口コミで広がっていきました。そこから30代半ばまでは建築の仕事をしながら、副業という形でサーフボードを作っていたのですが、会社を辞めることになったタイミングで夢だったサーフボード製作を仕事でやっていこう!もし無理だったら、また建築の仕事に戻ればいいと、独立しました。初めの1~2年は寒くてもストーブをつけられないし、缶コーヒー1本買うのも渋るくらい厳しい中でやっていましたが、少しづつ安定し気が付けば16,7年、全キャリアで27年ほどやっているという感じです。」





「サーフボードって曲線の融合体なんです。大工をしていた頃は、垂直・水平・直線と分かりやすい世界だったんですけど、この仕事を始めた時に全部がカーブなのでとても難しかったです。
でも乗り手に合わせて融合させていく、というのはおもしろい仕事だなと感じています。答えがあるような無いような仕事です。作っている人も乗る人もこれが答え!っていうのを一生かけても見つけられないんじゃないか、だからどんどんハマってしまうんじゃないかと思います。」





※画像提供:阪本さん
「サーフィンでもなんでもそうなんですけど、やり切ったという頂点まで行ったら燃え尽きちゃうと思うんです。60歳や70歳を超えてもサーフィンをやっている方を見るとそう感じますね。まだもっとうまくなれる、もっとこうできるんじゃないかっていう気持ちが毎回残るので、どっぷりとハマっちゃうんですよね。そのハマり具合は、いわゆるスポーツに熱中するという感じではないもので、『あなたにとってサーフィンとは?』と聞かれたら、スポーツと答える人は少なくて『人生、生き様』って答える人が多いんですよ。」

すべてはお客さまに喜んでいただくため

阪本さんに仕事をするうえで、やりがいを感じる瞬間をお尋ねしました。



「自分の手で作ってもらったものを喜んでいただける、これに尽きます。同じお金を出せば高級ブランドのボードを買うこともできるのに、わざわざ自分の所へ来ていただけるのはありがたいことです。それだけに、他では絶対ないものを作るぞという思いがありますね。
サーフボードって材料の出どころはほぼ同じなんですけど、作り手によってその人の色が出て、全く同じものはできないんです。今は、コンピューターマシンでデータを読み取ってコピーするというやり方が主流なので、手作業ですべて仕上げる人は貴重になってきていますが、この先マシン製が主流になってもハンドメイド手作業製は無くならない思います。陶芸家のような感じですかね!商品なのかアートなのかというところでいうと、手で作っている人はアートの感覚でやっている人が多いと思います。」





「サーフボードって通常は分業制で、造形するシェイパー、それを樹脂でラミネートするラミネーター、その表面処理をするサンダー(場合によっては磨き上げるポリッシャーがいることもある)この3工程で主に成り立っているんです。でも僕は、最後の工程まで自分でやりたいっていうのがあるので、ほかの工場にお願いすることはせず、全ての工程を自分でやっています。
お金ベースでどんどん作って儲けようと思ったら、もっと数を作れるかもしれませんが、僕は儲けたいとかじゃなくて手で作ったものを喜んでもらうことが一番嬉しいんです。そう思ってやっていると、頼まれてもないのに『ここ、もうちょっとこうした方が強度が出るな…』とかやってしまって1本にすごく時間がかかってしまうんですよね。なのでだいたい月に1本のゆっくりペースで作っています。それをわかってくれている方が買いに来てくれたり、リピートしてくださったりしています。 もし事情によって僕が作ったサーフボードを手放すことになった場合は、遠慮せずに僕に直接言ってくださいってお客さまに伝えています。サーフボードをオーダーするって大きなことなので、中古のボードを待っているお客さまもいらっしゃるんです。自分の作ったものがもし手放されることになっても、必要な人のもとに届くようにしたいのでそのようにお願いしています。」

阪本さんのサーフボードづくり

お客さまに喜んでもらうため、こだわりのサーフボードを作り続けられている阪本さん。
どのようにサーフボードを作られているのでしょうか。





「どんなボードに乗りたいのか、どんな波に乗りたいのか、お客さまとディスカッションしながら形や長さ、色などを決めていきます。でも、言葉だけのやり取りだと、例えば同じ色でも度合いがあるので、お客さまとこちらで考えているものが違うこともあるんです。なので、色づくりをする時は、今日色を作りますけど一緒に見ますか?と連絡しています。ほかにも今日はここまで進みましたよ!写真を送ってこまめに進捗報告もしています。
ボードを作る時に1番始めに材料をのこぎりで切り落とす作業があるんですけど、その作業はお客様自身にやっていただくことをちょっとした儀式のようにしています。自分で手を加えることによって、お客様がボードに愛着を持って大事にしてもらうためのプロセスになるのではないかと思うんです。」





店内には、サーフボード以外にも、阪本さんの作られたフィンもたくさん並んでいました。
「うちのフフィンは主に生地で作るタイプと木で作るタイプの2通りが主流です。
布は、当店で取り扱っている布地(70年代のヴィンテージもの)から選んでいただいたり、お客さまの思い入れがあるけれど今は着れないような洋服の生地をフィンにしたりすることもあります。」



「こちらは、最近家具などで見かけるレジンリバーデザインで作ったフィンです。レジンリバーでフィンを作ったのは世界で初めてじゃないかと自負してます!笑」





「サーフボードを作るときにガラスクロスというガラス繊維の布を使うんですけど、大きい工場では大量に端切れが出るんですが、その廃棄物をなんとかできないかと考え、うちのフィンは主にその端切れをアップサイクルして作っています。できればごみゼロでやっていけたらなと。海で自然と遊ばせてもらっているので、自然を大事にするのに少しでも役に立つことができればと思っています。」

セオリーに囚われず、頭を柔軟にやわらかく

最後に、阪本さんが大切にされている価値観について伺いました。



「自分の中で3つ思っていることがあります。

1. Be flexible. ~いつも柔軟に頭をやわらかく~
2. Back to basic. ~常に初心を忘れない~
3. Go for it. ~やるときはやる~

これは全部海から教えられたことでもあるんですけど、とりわけ3つ目は海にまつわることで、躊躇したり迷うなら行け!ということです。でっかい波の日に一瞬でも迷うともみくちゃになって危ないんです。行くと決めたら行かないと余計ひどい結果が待っているということから学びましたね。」





「今までのやり方のセオリーがあっても、実は違うやり方があるんじゃないかと別の角度から物事を見ることができる柔らかい頭を持っていれば、問題を解決したり、もっと良いものができたりするかもしれないと常に思っています。サーフボード作りにも、一応セオリー、流れの決まりのようなものがあるのですが、僕はたまに違うやり方をすることもあります。それは間違ってると批判されることもあったりしますが、最終的にいい作品ができて、機能も問題なく、お客さんが喜んでくれたらそれもまた正解だと思うんです。なので、ほかの人が自分と違うやり方をしていてもすぐに批判するのではなく『なるほど!それもいいね!』と言えるようにならなきゃいけないかなと考えてます。」


いかがでしたか?
サーフィンもサーフボード作りも、誰に教わるでもなく、見様見真似からスタートして自分なりのやり方を確立された阪本さん。
物事を突き詰めるには、『こうあるべき』というセオリーに囚われず、いろいろな角度から物事を見ることができる柔軟な思考が重要なのかもしれません。

▼Loco920*
〒594-0083
大阪府和泉市池上町3-7-12
Tel:0725-24-2526
Mail:loco920classic@gmail.com
Instagram:https://www.instagram.com/loco920/
13:00 OPEN、水曜木曜定休日(祝日などの変更あり)


 

一覧ページへ戻る

ページトップへ