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日々是、ほがらかに生きる|No.23

子育てで培った処世術

~子どもと、自分と、朗らかに過ごすために~

小春日和の休日。久々に会った友人と公園を散歩したときの話です。
同い年の子どもを持つ私たちの会話は、育児の話題が中心です。たいてい育児トークというのは、「大変だよね」と言い合い、労い合うことが多いのですが、彼女が話すのは「本当にかわいいよね」「幸せだよね」「頑張ってるよね、みんな」という明るい言葉ばかり。
「いつも前向きで真っすぐで、すごいなって思うよ」と伝えると、「それはお互い様だよ」と、彼女は笑いました。

ネガティブとポジティブをいったりきたり



子育てをしていると、否応が無く自分の心と向き合う機会が増えます。
自分の中にあるポジティブさとネガティブさ。このふたつは、決して切り離せない、まさに表裏一体の関係性。どんなに明るい人でも、表に出ていないだけで反対の側面も持っているはず。お互いポジティブにみえる私も友人も、心の中にはしっかりネガティブな一面があるのだと思います。
特に私は幼少期から、失敗したらどうしようとか、間違えたら嫌だなという思考が先行するタイプでした。その反面、大学時代はポジティブ絶頂期を過ごしましたし、社会に出てからは再びネガティブ優位にもなりました。同じ人間でも、環境によって振り子のように、ネガティブとポジティブの間をいったりきたりするのだと思います。

苦し紛れで生み出した、思い込みポジティブ



自分や家族が健やかに暮らすために、なるべく明るくありたい。ふとそう思ったのは、長女が生まれて1年が経った頃でした。
出産してからというもの、眠れない日々が続き、家事に育児にとにかく忙しく、加えてホルモンバランスの波も押し寄せる中で、心のバランスを健やかに保つのは至難の業でした。
心配事や万が一のことが常に頭によぎる。ネガティブとは少し違うけれど、明るいばかりではいられなかった当時の自分を思い出します。



産後1年が経った頃、少しずつ自分の体力や気力が回復していくのを感じました。同時に、子どもはよちよち歩き出し、ますます目を離せなくなりました。
転ばないように気を付けないと!離乳食もどんどん進めなくちゃ。予防接種の進行状況は?お昼寝が短くなってきたな。児童館に行ってみたいけれど、緊張するな。寒い夜は、何度も蹴とばす布団をかけなおし、暑い夏はあせもができないかチェックを欠かさず。子ども自身、意思もはっきり表現し、泣きやまないことも増えました。



小さな命を健やかに育てる使命感とプレッシャー。そうした感情と、もっと上手に付き合う方法はないのかな?ぐるりと考えを巡らせたあとで、なんでも一旦ポジティブに思い込んでみる術を身に着けたのです。



例えば、スーパーで買い物中に、子どもが突然泣きだしてしまう。ベビーカーに乗ってほしいのに、全然乗ってくれない。お風呂の時間なのに、なかなか入ってくれない。
こうした日常は、事実として大変なことに違いないけれど、私自身が「大変だ」と言葉にしてしまうと、そのマイナスな事実がずしんと心にのしかかり、私も子どもも抜け出すまでに時間がかかります。
だから、少し強引にでもポジティブに考えてみるようにしたのです。「泣きやまないなんて、自己主張ができるようになった証拠だな。成長していて、すごいね!」というように。

育児に魔法なんてないけれど、自己暗示ならできる

育児って、本当に思い通りにはいきませんよね。(そもそも、子どもを思い通りにさせようとするのがおこがましいのですが……。)なんとかその場を収めたくて、魔法があるなら使いたいと思っても、実際はそんな魔法はどこにもありません。
ならば、自分の考え方を変えてしまえばいい。でもそれは、自己啓発本のように「何事も前向きに捉えましょう!」というトーンでは決してなく、頭を抱えて捻りだした末、辿り着いたひとつの方法に過ぎません。

思い込みがいつか魔法になって、自分を救ってくれる



自分の中にあるネガティブさは、消すことも、切り離すこともできない。そんな感情と上手に付き合っていくための、ポジティブな自己暗示。それは、“大変”である育児をいかに“楽しく”できるか、模索して生み出した処世術のようなもの。
子どもと朗らかに過ごしたいという願いが生み出した、つたない自作の魔法なのです。



この魔法の効き目は、いつまでどれくらい続くのでしょうか。
もしかしたら、続けているうちに自己暗示でも魔法でもなくなって、もっと自然なものに変わっていくのかもしれません。
「そうなったらいいね」と笑い合いながら、珈琲を片手に歩く、春の道。やわらかい日差しが、私たちの未来を明るく照らしてくれるような気がしました。

顔写真
Profile 佐藤ちえみ
京都在住のフリーライター。京都好きが高じて、家族で京都に移住し4年目。
京都・子育て・暮らしをテーマに執筆活動する傍ら、プライベートでは3歳と5歳を育てる二児の母。

 

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